海野建設

アイディアで動かしていく。
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海野洋光さんは、肩にとどく長髪を後ろに結ぶオールバックヘアスタイルがトレードマーク。海野建設株式会社の代表取締役でいらしゃるのですが、その個性的な風貌に違わず、いったい何者?感いっぱいの方です。
何しろ名刺には、土木・建築・とび土木・舗装・水道施設・大工/工事、さらには<鳥居専門店>の文字。その上、骨董店も営んでいらっしゃるのですから。
でもお話をうかがっていると、その多様な側面が、一つの核を中心に展開していることがわかります。その核とは、新たな発想・アイディアです。
海野さんが地元とする日向市は、西に九州山地を臨み、東は日向灘に面する豊かな自然に恵まれたところです。
山と海とをつなぐ耳川の水運を利用した林業も盛んでした。けれども、さまざまな要因で国産材は競争力を失い、他の多くの地域同様、日向の林業も衰退を余儀なくされていきます。どうにかしなければ。
本業の土木や建築の分野でも、さまざまに工夫する労を惜しむことなく、いろいろなアイディアを生み出してきた海野さんは、林業の再生には新たな発想・アイディアが必要だし、新たな発想・アイディアを取り入れる余地もあると感じました。
そしてその “感じ” から実際に生み出されたアイディアは、やがて、日向市駅のリニューアルとそれに伴う市街地の再整備の場でもさまざまに活かされることになるのですが、その話はまた別の場に譲ることにして、
……あ、でも、さわりにひとつご紹介しておきましょう。日向市駅前の広場の車道との境界に設置されたストリートファニチャ(ボラートと呼ぶそうです)。海野さんが制作を担当しました。モックル処理という無公害な木材防腐処理を施してあるところに、ひと工夫があります……
海野さん考案の<軽トラ屋台>と<組立和室>のご紹介をしたいと思います。いずれも、海野さんの新たな発想・アイディア力の一端を示すものです。
■軽トラ屋台・K mobile

荷台にさまざまな物品を積んだ軽トラが集って開催される、通称、軽トラ市。今では地方の活性化には欠かせない存在になっていて、中でも、日向市にほど近い宮崎県川南町のトロントロン商店街で毎月第四日曜日の午前中に開かれる軽トラ市は、日本最大規模なのだそうです。
そんな縁もあって海野さんが発案したのが、この<軽トラ屋台>でした。

それまでそこになかったものがふっと現れて、何やら人を引き寄せる磁場をつくる。屋台には、えも言われぬ不思議な魅力があります。

一方、軽トラには “キビキビ力” とか “小ぶり力” とでも呼びたくなる軽やかな機動性という魅力があります。

……軽トラ市が成立するのも”軽“だからこそですよね。これが “重トラ市” だと、特に商店街などのいちばん活気を取り戻したい街中には、やっぱりそぐわないかな、と……

であれば、その2つを合体させると魅力のかけ算ができるではないか、という海野さんのひらめきの産物<軽トラ屋台>。

ただ単に軽トラに品物を積んで市に参加する場合との違いを、想像してみます。うん、明らかに “お店感” 、“いらっしゃいませ感” が違うでしょう。 “あら!と注目される感”も、木を使っているからこその “その場を豊かにする感” も違うように思えます。

普段は、軽トラの荷台から屋台セットを降ろして保管しておけるシステムづくりも含めて、木を利活用するための新たな発想・アイディアの好例を、<軽トラ屋台>に見ることができました。なるほど、2014年度グッドデザイン・ものづくりデザイン賞を受賞したのもうなずけます。

■組立和室・くみたて

工具を使うことなく、大人であれば1人2人の手で、15分程で組み上げることができる畳二枚分の空間。

<組立和室・くみたて>を海野さんが考案したきっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災でした。

多くの人が避難を余儀なくされる。公共の大きな空間に大勢の人が集まる避難場所には、たとえ小さくてもプライバシーを守ることができる空間が必要になる。であれば、心和む和室で、そうした空間を提供できるシステムが作れないか。

こうして元はといえば、緊急避難というケースから発想されたものなのですが、<組立和室・くみたて>には、もっと普遍的な何かで人を惹き付ける魅力があって、実際に組み立ててみることでその力を実感することもできました。

取材の日は快晴。日向市駅前の、駅舎と一つながりになるように設えられた広場の芝生の上に、<組立和室・くみたて>が組み立てられはじめます。すると、通りすがりに足を止めて、組み立ての様子を興味津々見つめる人の姿が……。そうしていよいよ組み上がると、実際、畳に腰を降ろしてみる人も少なくありませんでした。

<組立和室・くみたて>には、そこになかったものが立ち現れる驚きと、しかもそれがプレハブのような無機質なものではなく木の和室だという意外性があるのですね。
ちなみに<組立和室・くみたて>の “くみたて” には、日本の伝統技能としての「たくみ=匠」、道具や工具を使わない「てくみ=手組み」、日向市に古くから伝わる十五夜祭りで使われる見立て細工の「みたて=見立て」という意味が込められています。こんなところにも、組立和室がしっかりとしたコンセプトの下に創られていることがうかがえます。
<組立和室・くみたて>。2015年度グッドデザイン賞受賞作です。

海野さんはアイディアの人。これからもいろいろなアイディアで、いろいろなことを動かして行くはず。海野さんの次のアイディアが楽しみです。