諸塚村

森を元気にして、人も元気にする。
諸塚という村があって、諸塚の村の人たちは、諸塚村の生き方をしています。
森と生きる、という生き方です。自分たちのために。自分たちのためだけではなく。

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耳川(みみかわ)。またの表記・呼称を美々川・美々津川(みみつかわ)。宮崎県日向(ひゅうが)市の“美々津”という、雅やかな名前が付けられた汀で、日向灘に注ぐ川です。その清らかな急流を辿って北西へ向かうと、日向市の中心部から直線距離にして40km程の処に、<諸塚村(もろつかそん)>はあります。
村に暮らすのは1,780余名の方々。およそ187,56㎢の面積の95%が傾斜地で、平地はわずか1%といいますからまさに山の中の村です。
人口や立地条件だけを見れば、「過疎の」という形容詞で一括りにされても何ら不思議のない村かもしれません。
けれども諸塚は、近年、各方面から注目を集めているといいます。いま日本の山村が共通して抱える問題に、「例えば私たちは、こういう取り組みをしています」と、ある確かな答えを提示する村として。

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2004年。諸塚村は“村ぐるみ”でFSC森林認証*¹を取得しました。日本で初めてのことでした。
森林認証を村ぐるみで取得しているということは、村全体の森林管理や林業経営が、自然環境の保護・保全、永続性などの観点から適正に行われていると公に認められた証です。
そしてそれは、古くから山の恵みと共に生きてきた村の人々が、改めて山と生きることについて考え、これからも山と生きていくことに新たな価値と可能性を見出して、具体的な行動を起こした証でもありました。

諸塚村の代名詞ともなっている景観があります。スギやヒノキなどの針葉樹と広葉樹*²が入り交じって、モザイク模様を織りなす山々の眺めです。
新緑、あるいは紅葉の頃、多様な樹々が生きていることの美しさをことさら際立たせるであろう山々は、多様な役割を担って諸塚に暮らす人々の姿そのものでもあります。

“諸塚は山深い急峻な場所にある村です。大規模で一元的な木材・農作物の生産、畜産には向いていません。ですから諸塚の人々は、いくつかの生業を組み合わせた複合的な営みを行ってきました”それは

“家族労働を基本にして、一人一人が多様な役割を担いながら、相互に補完しあって生活していく営み、顔が見える信頼関係があってこその営みです”

そういう意味で

“諸塚という小さな村にとって、人材というのは量ではなく質。一人一人が、いわば地域の宝です”

それに、ここ近年は

“就学などで一度村を離れた人も戻ってきてくれていて後継者も育っていますし、村を離れていく人もありません”

嬉しいことに

“所得は高くないかもしれないけれど、お金には換えられない豊かさというものを、村の人たちに実感してもらえているのではないかな、と思っています”

今回の取材で、村の歴史や伝統・文化、課題、それを克服するための様々な取り組み等についてお話をいただいた諸塚村企画課長の矢房孝広さんの言葉。その端々に、豊かさとは何かをもういちど問い直す時期を迎えている私たちへの、大切なヒントがちりばめられていました。

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追伸*1
森林認証って、何でしょう?


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森林認証。難しげな聞き慣れない言葉ですね。いったい何のことなんでしょう? どんな意味があるのでしょう? どうしてこんな制度が生まれたのでしょう? ちょっと探ってみましょう。日用品、家具、建材、紙などなど、私たちは、木を原材料とするさまざまなモノを使い、消費しながら暮らしています。では、それらの木はどこからやってきたものなのでしょう。
普段は特別に意識しないことですが、例えばそれらの木が違法に伐採されたものだとしたら…。その木でできたモノを使うことは、今も世界中で問題になっている環境破壊などに結びついていることになります。たとえ違法ではないとしても、山や大地を丸裸にするような無計画な伐採で得られた木だとすれば、結果は同じです。

そこで、「これは環境に配慮した持続可能な森林管理の元に生産された木材ですから安心して使っていただけますよ」というラベリング(=日本で云う所の“お墨付き“)制度が必要だ、ということで始まったのが森林認証制度です。
ちなみに諸塚村が村ぐるみで取得したFSC森林認証のFSCとはForest Stewardship CouncilⓇ=森林管理協会の略。1993年に林業者、木材引取業者、先住民団体、自然保護団体などが集まって設立された国際的な機関で、世界に先駆けて森林認証制度を提案しました。

その木材がどこから、どういう経路で来たものなのか、利用する私たちひとりひとりが意識するのはとても大切なこと。森林認証は、分かりやすくその手助けをしてくれる制度です。

追伸*2
諸塚村と櫟(クヌギ)


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針葉樹と広葉樹が美しく入り交じるモザイク林。森と生き・森に生きる諸塚を象徴するその景観の中に、村と村の人たちが特別な想いを寄せる広葉樹が生きています。クヌギです。炭やシイタケ栽培のホダ木、あるいは家具や壁・床などの材料として優れているばかりか、森に生物の多様性をもたらし、水を育む力をさずけてくれる、里山を代表する樹です。諸塚村のホームページ。村が取り組む<櫟(くぬぎ)の森プロジェクト>を紹介する文章に、ペルーの医術師に伝わる言葉と日本の樹医師の言葉が紹介されています。
「気の悪い人を治療して自分も影響を受けた時、(アマゾンに)いのちの樹があって、それに会いに行きそれに抱きつく。そしてしばらくすると気が交流して、整っていくのだ。」
「人間と樹というのは何千年何万何も前からお互いに助け、助けられてきた。病は、昔からあったものであって、今はじめて病ができたものではない。それを自然と治してくれたのが樹だった。」
そして、こんな言葉も…。「人にとって、樹は、苦抜樹(クヌギ=苦を抜く樹)…。」
さらに追伸
諸塚村だけにとどまらない
諸塚村の森の豊かさ


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もうひとつ、お伝えしていかなければならない大切なことがありました。
それは、森と共に生きる営みが育む豊かさが、自分たちの村だけのことではない、ということを諸塚の人たちが知っていること、意識していること。そう、諸塚村を流れる耳川のさらに上流には、椎葉村などもあるのですし、諸塚の人たちが守り続ける森の恵みは、耳川の流れがつなぐ流域や汀の街や海にまでもたらされるのですから。
つながっているんだと知ること、想像できることが、やっぱりとっても大切。たとえ都市部に暮らしていたとしても、山や森、そこで暮らす人たちは今どんな様子でいるんだろうって、時には想うようにしたいと思うのです。